皮膚科で最もよく使われる薬はつけ薬ですが、そのつけ薬が効かないときあなたはどうしますか?その薬が効かないのは誰のせいでしょうか?一緒に考えてみましょう。
(1)医者が悪い時 : 診断が間違っており、誤った治療をしている場合
水虫のときに湿しんの治療を行なっていたり、湿しんのときに水虫の治療を行なっていたりする場合がこれに当たります。いくら薬をつけても良くなりませんし、かえって悪くなります。皮膚科専門医であれば、たいていの場合途中で診断の間違いに気が付いて、つけ薬をかえます。前医での治療を内緒にして新しい皮膚科を受診されますと、正しい診断ができずに誤った治療を繰り返すことになりますので、良くならないときにも必ず一度は元の皮膚科を受診してください(または、元の皮膚科での治療とその効果を新しい皮膚科医に伝えてください)。
(2)あなた(患者さん)が悪い時 : きちんと薬をつけていない場合
「塗らない薬は効かない」という言葉があるように、いくら良い薬があっても正しく塗っていなければ治りません。1日に塗る回数、一回に塗る量(範囲)、塗る期間どれかが一つでも欠けると期待される効果がみられません。水虫を例に挙げますと、かゆいところにかゆい時にだけ薬を塗っていても一向に治りません。つけ薬を広い範囲にかゆみ(皮膚の症状)がなくなってもしばらくの間(最低1~2か月)塗り続けませんときれいに治りません。湿しんでも少しかゆみが治まって、つけ薬をやめますと直ぐにかゆくなって引っかいてしまい元に戻ってしまいます。この場合でもかゆみとは関係なく、皮膚の状態が良くなるまでは塗り続けなければなりません。湿しんでもひどいかぶれの場合には最低2週間くらい塗り続けなければ良くならない場合もあります。また、アトピ―性皮膚炎で重症の場合(体全体に湿しんがみられる場合)には、一回に薬を5~10グラム、1日1~2回、約1週間塗り続けなければ良くならないこともあります。そのような時には3日くらいで薬を止めたり、一回に塗る量が足りなければ当然良くなりません。
(3)病気が悪い時 : 薬が効かない病気、病気の原因が除かれていない場合
皮膚病については多くの方が必ず治るものと考えているため、直ぐに治らない場合には悪性のものか、内臓が悪い場合かのいずれかではないかと心配されることがよくあります。悪性のものは手術をすればなくなりますし、内臓の病気と関係している場合には内臓の病気が良くなれば皮膚の症状も改善します。ところが、皮膚病には悪性でもなく、内臓とも関係なく、つけ薬の効かない(効きにくい)慢性に経過する皮膚病が少なからずみられます。このような場合には、正しく診断をして皮膚病と長くお付き合いしていくしかありません。薬は症状を和らげる手助けにはなりますが、完全に治すことはできません。これにあてはまる代表的な病気に慢性色素性紫斑などが挙げられます。
次に、考えられるのは病気の原因が残っているために、つけ薬をつけても治らない場合です。一番良くみられるものは、主婦の手あれです。つけ薬をいくら塗っても、手袋をはめずに素手で水や洗剤に触れると悪化の一途をたどります。シャンプーやリンスによるかぶれ、女性の化粧品かぶれ、職業性のかぶれなど、その他にもダニアレルギーのあるアトピ―性皮膚炎患者がダニ対策をしていない場合などもこれにあてはまります。また、水虫の患者が足を良く洗わない場合、靴下や靴を長時間はき続ける場合、足ふきマットを長期間洗濯しないで使い続ける場合などもこれにあてはまります。これらは病気の原因や悪化因子を取り除く努力を患者さん自身がしておられませんので、その意味では②患者さんが悪い時に当てはめて考えた方がよいかもしれません。
(4)薬が悪い時 : 薬の副作用がみられる場合、薬の効果が弱い場合
つけ薬の代表的な副作用はかぶれです。特に、非ステロイド外用剤や抗菌剤での接触皮膚炎、光接触皮膚炎は外来でしばしば見られます。また、つけ薬に含まれる防腐剤などの添加剤でもかぶれることがあります。具体的には、ブフェキサマク(アンダーム)、クロタミトン(オイラックス)、硫酸フラジオマイシンによるかぶれ、ケトプロフェンによる光接触皮膚炎などが挙げられます。特に、クロタミトン、硫酸フラジオマイシンなどは市販のつけ薬の成分としてさりげなく含まれていることがありますので注意が必要です。
ステロイドのつけ薬の副作用としては、毛のう炎などの感染症、皮膚の萎縮、多毛、酒さ様皮膚炎(顔面の赤ら顔)などが挙げられます。これらの副作用が見られたときには当然つけ薬を中止して、その副作用に対する処置をしなければなりません。
診断、薬の効能が正しいにもかかわらず、薬が効かないときには薬の効果が症状に対して弱い場合が考えられます。ランクの弱いステロイドばかりを使いますと、ひどい湿しんをおさえることはできませんし、水虫の薬にも種類はたくさんありますが、相性があって良く効く薬、あまり効かない薬があります。薬の効きが悪い時には、速やかに変更して良く効くものに替えなければなりません。
つけ薬で良くならない時には以上に示しました四つのいずれかの場合が考えられますが、皮膚科医の重要な仕事の一つはこの見極めにあります。
(1)についてはあってはならないことですが、二つか三つの皮膚病に少しずつあてはまるところがあり、どれにするにも決め手にかけている場合、あるいは、めずらしい(その医者が知らない)病気に出会った場合などでは直ぐに正しい診断をすることはなかなかできません。経過をみたり、検査をしたりして正しい診断ができて初めて治療をすることができます。水虫などの見た目で診断のつきやすいものでも、かぶれや異汗性湿しんと区別がつかないことも少なくありませんので、このような場合には治療をしていくなかで誤診に気が付いて診断と治療を変えていくこともあります。
ほとんどの皮膚病は症状、経過、検査などから正確な診断をすることはできますが、いろいろな治療(特につけ薬による治療)を行なっても良くならない場合もめずらしくありません。特に、(2)薬がきちんと使用されていない場合、(3)原因が取り除かれていない場合には患者さんの協力がなければ治すことはできません。しかし、現実には忙しくてきちんと薬が塗れないとか、病院に薬をもらいに来れなかったとかいう場合もしばしばありますし、原因をとり除こうにも美容師のシャンプーやパーマ液などによるかぶれは仕事をやめない限り良くなりませんので、このような場合にはなかなか思い通りに治すことはできません。
慢性の皮膚病では、上記の四つのいずれにあてはまるかを医者と患者さんの双方で一緒に考えて、お互いに協力と理解をしながら治療に取り組むことが不可欠です。薬をきちんとつければ、あるいは原因をつきとめれば治る病気であれば治しきることを目標にします。病気の性質上治りにくい皮膚病や、原因をなくすことのできない皮膚病では、少しでも症状を軽くすることを目標にします。良くならないという理由だけで医者を替えるドクターショッピングは是非止めてください。廻り道になることが多く、下手をすれば症状を悪くさせるだけです。どうしても納得のいく説明が得られない場合には元の医者を通してセカンドオピニオンの相談をされてはいかがでしょうか。