アトピー便り

アトピー便り46:彷徨(さまよ)う患者さんへ(1)

患者さんの中には症状が良くならないためにいくつもの皮膚科を次々と受診される方がいらっしゃいますが、このような受診行動をwandering(ワンダリング)[日本語では彷徨うという意味]と呼びます。皮膚科ではアトピー性皮膚炎の患者さんで最も多く見られますが、その他の疾患でもしばしば見られます。完全に治したい、できるだけ早く治したいという患者さんのお気持ちはよくわかりますが、ワンダリングは患者さんにとって必ずしも効果的ではなく、どちらかと言えば不利益につながることが多いと思われます。
アトピー性皮膚炎でよく見られるワンダリングを繰り返している患者さんの訴えとしては、(いくつもの皮膚科に診てもらったけど) (1)どこも塗り薬を出すだけでよくならない。 (2)ステロイドの塗り薬は副作用がこわいので使いたくない。 (3)タクロリムス軟膏は塗った後痒くなるので使いたくない。 (4)検査をしてもらったことがないので根本から治したいから検査をして原因を見つけたい。 (5)説明をしてくれない(話を聞いてくれない)。 (6)(番外編)以前に診てもらっていた皮膚科の待ち時間が長いから薬だけ出して欲しい。 などが挙げられます。
そこで今回は (1)どこも塗り薬を出すだけでよくならない。 を検証してみましょう。アトピー性皮膚炎の治療の塗り薬はステロイド外用剤を中心に、一部タクロリムス軟膏を使います。ステロイド外用剤は強さが5段階に分かれていて、同じステロイド外用剤でも種類によって効果が違います。ステロイド外用剤の強さ、一回に塗る範囲・量、塗っていた期間、また、その時々で症状が軽かったり、重かったりしますので、いろいろな皮膚科で行なわれてきた治療を同じステロイド外用剤の治療と言ってその効果をひとくくりで評価することはできません。先ずはそれまで行なっていた外用治療の内容をきちんと整理して、できれば日記のように書き留めておくことが重要です。内容を書き留めておくと、皮膚の症状と併せて見れば治療が十分かどうかが分かります。多くの場合はステロイドを怖がりすぎて十分に治療ができていません。弱い薬や少ない量をダラダラ続けているか、少し良くなっただけで急に治療を止めてしまい症状が良くならずに悪くなっているケースがほとんどです。
正しくきちんとステロイド外用剤を続けて塗っていても良くならない場合には症状が悪くなる原因(ハウスダスト・ダニなどのアレルギー、ストレス、汗、乾燥、金属アレルギーなどのかぶれ、石けん・シャンプー・化粧品などの生活習慣に伴うトラブルなど)があってその対策ができていないか、細菌感染やウイルス感染などの合併症が見られているかのいずれかが考えられます。
アトピー性皮膚炎の治療で大事なことは治療のゴールを確認しておくことです。症状の軽い方は完治もしくはたまに付け薬を塗る程度で症状をコントロールすることが十分可能ですが、重症の方は短期間での治癒をめざすのではなく、治療を続けながら痒みなどで日常生活の質を下げることなく症状をコントロールしていくことが大事です。セカンドオピニオンや医者との相性などもあって医者を替えることは必ずしも悪いことではないと思います。「後医は名医」という言葉もあるように後から診る医者の方がいろいろ情報も多く有利な点も少なからずあります。しかし、ワンダリングを繰り返す患者さんは過去の治療や症状の推移、検査データなどを後医にきちんと伝えることがあまりないため後医は患者さんの正しい状況を把握できません。その結果前医よりも良い治療結果を残すことはなかなかできません。最終的には一人の主治医のもとでいろいろ相談しながら治療を続けていくことをお勧めします。

2015/9/18


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