アトピー便り

アトピー便り55:アトピーあるある

アトピー性皮膚炎の患者さんおよび患児の親御さんの多くは一定期間内で完治することを望まれて受診されます。外来で患児の親御さんからしばしばお伺いするのは、初診・再診を問わず「完全に早く治したい」、「ステロイドを使わずに治したい」、「検査をして原因から治したい」といったご意見です。
かゆみでつらそうな、症状が目立つ子どもを目の当たりにすると早く何とかしてあげたいと思う親御さんの気持ちは良く分かりますが、アトピー性皮膚炎の治療の目標は,日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドラインにもあるように、「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持することである。また、このレベルに到達しない場合でも、症状が軽微ないし軽度で、日常生活に支障をきたすような急な悪化がおこらない状態を維持することを目標とする」ことで、特に重症例では「完全に早く治す」ことはなかなかできません。そこで経過の良いアトピーの子どもを持つ知り合いの方からアドバイスを受けることが多いようで、外来でもそのアドバイスを元に受診されるケースをしばしば経験します。アドバイスの主なものは、(1)ステロイドは使わずに治す方が良い、(2)ステロイドは使い続けると色が黒くなる、(3)検査をして食物アレルギーの対策をしないと治らない というものです。
先ず(1)についてですが、小児のアトピー性皮膚炎の多く(7,8割)は軽症なので治療の内容とあまり関係なく良くなります。実際にステロイドを使わなかったり、弱いステロイドを少し使っただけで治る子どもも多いのですが、残りの2,3割の症状の強いアトピーの患児についてはステロイドを使わずに治すことは難しいのでご留意ください。親御さんに症状を過小評価されていることも多く、症状の強い患児が(ステロイドを使った)十分な治療を行なわないとどんどん症状がひどくなっていきますのでご注意ください。また子供さんがあまりにかゆがるあまり症状を過大評価されている場合もありますので、症状がどんどんひどくなる場合、見た目は大したことはないけどすごくかゆがる場合、いずれも皮膚科専門医に相談してみてください。重症のアトピーの子どもさんでは強いアレルギーが見られることが多く、かぶれ、ストレスなどによるひっかき癖、生活習慣上(汗、乾燥、シャンプー、石けん、洗剤など)の悪化因子なども数多くありますので、これらの対応抜きには症状の改善は望めませんので必要に応じて検査が必要となります。
(2)については、湿しんを含めて炎症の跡は火事の焼け跡と一緒で茶色く跡が残ります。早くステロイドでアトピーを治すと茶色い跡はあまり目立ちませんが、こじらせて治るのに時間がかかった場合の跡はしばらく目立ちます。また、塗るステロイドの強さ、塗る範囲、塗る量、治療(継続)期間が十分でないと、いくら治療を毎日続けていても炎症がダラダラと続いて、かゆみで引っ掻き続けて、皮膚が茶色く、硬くなってしまいます。ステロイドを長期間にわたって使い続けて症状が良くならないときには副作用のことはほとんどなく、ステロイドの外用治療が長期間にわたり十分に行なわれていない結果、アトピーの症状が改善していない、場合によっては悪化しているものがほとんどです。ただし、外用するにつれて明らかな悪化がある場合には外用剤によるかぶれ、とびひ、ヘルペスなどの感染症がみられることもありますので、良くなっているかどうかわからず判断に迷うときには早めに(外用開始後数日以内に)皮膚科の主治医の診察を受けてください。
(3)については、乳幼児では食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎がありますが、近年食物アレルギーは湿疹などでバリア機能の悪い皮膚から食物に感作されて起こると考えられるようになりました。消化器の発達に伴い2,3歳で食物アレルギー自体軽快するものがほとんどですが、乳児期のアトピーについても皮膚の湿疹をステロイドで早期に治すことが重要で、保湿の継続とともに食物アレルギーの予防にもつながると考えられています。食物アレルギーの治療の最近の考え方は必要最低限の制限です。ひと昔前までは血液検査でアレルギーが少しでも出た場合にアレルゲンを完全除去される場合もありましたが、血液検査はあくまで参考で、実際に食べてみて反応をみる負荷試験で判定します。卵を例にとりますと、黄身は反応が出にくいので食べれることが多く、パンやめんのつなぎには少量しか入っていないので血液検査で卵白が低い数値で陽性に出ていても食べれることがほとんどです。血液検査が高値で陽性の場合、明らかに食べた直後に口のまわりが赤くなったり、じんま疹が出たり、ぜんそくなどの強い症状が出る場合には厳格に制限することが必要となります。乳幼児のアトピーで食物アレルギー検査が必要となるのはきちんとステロイドの治療を続けているにもかかわらず症状が良くならない場合で、多くの場合にはステロイドの適切な外用と保湿を続けることで症状が改善することが多く、アレルギー検査をすぐに必要とすることはあまりありません。検査で低い数字で陽性にでることはめずらしくなく、過剰に反応して制限しすぎないようにすることが必要です。

2017/9/29


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