気まぐれ随想録

見ただけでわかるのが皮膚科の名医なの !??!

 見ただけで診断を即座につけることのできるお医者さんが名医だと患者さんから言われることがあります。ほとんど誰も知らないような特別な病気を診断するような場合にはあてはまるかもしれませんが、たいていの皮膚病の場合には見るだけで診断はできません。手足の水虫ひとつとっても真菌要素を顕微鏡で検査しなければ正確に診断できません。湿しん、掌蹠膿疱(しょうせきのうほう)症、汗疱(かんぽう)など、見ただけで区別のつかない疾患が少なからずあります。実際の診療では、外来の状況、過去の既往歴、治療歴なども考慮して毎回顕微鏡検査をするわけではありませんが、一度も検査をしていない場合には本当に水虫かどうかわからない場合もあります。特に、爪に変化があると、すぐに爪水虫と思われがちですが、爪周りの湿しんや靴の具合や歩き方などの影響で爪の変形がくることもあります。前医で皮膚や爪を見ただけで水虫の診断を受けていて、良くならずに転医してきて、顕微鏡検査で水虫(白癬(はくせん)菌)がいない場合に水虫ではないと説明した場合にこちらの話すことを理解してもらえないことがあります。そうした場合、前の医者はすぐに水虫がわかったのに、今度の医者は水虫もわからないということでまた別の皮膚科医を受診されがちです。
 同じようなことはアトピー性皮膚炎にもあてはまります。症状を一度みただけで、あるいは検査結果をみただけでアトピー性皮膚炎の診断をすることはできませんし、悪化因子を特定することはできません。水虫のときとは逆に、検査結果だけでアトピー性皮膚炎の診断や悪化因子を決めつけることは避けなければなりません。検査結果と実際の臨床経過が一致して初めて意味があります。外用剤だけでコントロール良好なアトピー性皮膚炎の患者さんは一度検査をすれば何回も検査をする必要はありませんが、、外用剤だけでは症状の改善のみられない重症の方は悪化因子の検索のために一度は検査をして悪化因子を取り除く必要があります。
 時間をかけず、手間をかけず、正確な診断、治療をすることができるのが理想の名医ですが、治療経過をみたり、検査を行なったりして初めて診断ができることもめずらしくありません。皮膚科医において、占い師のように見るだけで水虫の診断をすべて行なったり、検査結果だけを頼りにアトピー性皮膚炎の治療を行なうのは名医ではなく、迷医ではないでしょうか。


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