気まぐれ随想録

小児アトピー性皮膚炎における脱ドクターショッピングのすすめ

 当クリニックではアレルギー科を標榜していることもあり、アトピー性皮膚炎の患者さん特に小児のアトピー性皮膚炎を診る機会が多くなっています。かわいい子どもさんがかゆがって、かきむしって、あげくのはてに皮膚が赤くなって、傷になったり、ごつごつしてきたりしますので、早く治してあげたいという親御さんのお気持ちはよくわかります。ところが、この親御さんの子どもさんを思う気持ちが強いがためにアトピー性皮膚炎の治療が難しいものになることがあります。
 実際に、多くの親御さんは、治療薬のステロイド外用剤は副作用が強くて子どもさんの体には良くないからできるだけ使いたくないとか、検査をして一刻も早く原因を見つけ出して根本から治してあげたいとかいう考えが強くなりがちです。極端になってくると、これらの考えに反する診療や説明を医者から受けた途端に、養老孟司著の「バカの壁」の文中にもあるように「知りたくないことに耳をかさない人間に話が通じない」という状態となり、いくら丁寧に説明しても了解いただけなくなってしまいます。アトピー性皮膚炎では患者さんによって治療法も検査が必要かどうかも異なるにもかかわらず、「ステロイドを使わない」「アレルギー検査をしてくれる」医者を探し求めるドクターショッピングへとつながっていきます。
 また、最近はインターネットを通じて非常に多くの情報が簡単に手に入るようになりましたが、アトピー性皮膚炎の治療に関しても患者さん同士がインターネットのいろいろなコミュニティでの掲示板を通して活発に情報を交換しているのを目にすることがあります。クリニックでの治療に満足ができなかったり、医者が信頼できなかったりした場合に近況を伝えて同じ状況の方に意見を求めて参考にするものですが、実際に何度か当クリニックに関するものと思われる書き込みにも遭遇して、正直なところ戸惑ったことがあります。書き込みをされる方は、相談者のことを真剣に心配されて誠意をもってアドバイスされているのはよくわかるのですが、その情報には誤りが多く必ずしも相談者のためになっていないことが多いのが実状かと思われます。
 実際の診療でもインターネットの掲示板上でも問題になっているのは、ほとんどの場合「ステロイド外用剤」と「アレルギー検査」に関してといっても過言ではありません。先にも少し述べましたが、「ステロイドを使わない治療をしてほしい」とか、「アレルギー検査(多くの場合血液検査)をしてほしい」とかいった要望です。ここで一度このような親御さんにぜひお願いしたいことは、一度ステロイドやアレルギー検査についての説明をきちんとそれまで診てもらっている主治医にしてもらうことです。ステロイドの副作用にはどのようなものがあり、実際にどのくらい起こるのかとか、アレルギー検査がアトピー性皮膚炎の原因を見つけるのにどの程度役に立つのかとかいったことを正しく教えてもらってください。主治医にきちんとした説明を求めても納得のいく対応をしてもらえないときにはセカンドオピニオンを求めて他医を受診されることをお勧めしますが、その場合にはドクターショッピングにならないように気をつけてください。
 そこで、ドクターショッピングセカンドオピニオンの違いですが、前者では患者さん自身に考え(信念)があってその考えにあった医者を探し求めるのに対して、後者の目的は、患者さんが納得し、満足するためにいろいろな医者の意見を基にしてより良い医療を求めることです。つまりドクターショッピングにおける主導権がもっばら患者さん自身にあるのに対して、セカンドオピニオンの主導権は医者と患者さんの双方にあるといえます。
 当クリニックでも良く経験しますが、セカンドオピニオンを目的にしているにもかかわらず前医での治療歴や検査結果を十分に情報として提供してもらうことなく受診される方が少なくありません。しかも初診時に決まって詳しい病状説明や今後の見通しを聞かれます。ところが、初診時には前医での治療過程に比べて情報量がはるかに少ないために、前医以上に詳しく病状説明を行なったり、治療効果をあげたりすることは物理的に不可能です。従って、こちらとしても「現時点ではよくわからない」としか答えようがありません。よく話を伺うと前医で病状の説明をきちんとしてもらっていないことがほとんどであるため、「改めて一度前医できちんと説明してもらってください」とお話することが多くなります。そうするとこちらに来られた意味がないということで他医を受診することにつながり、結果的にドクターショッピングとなってしまいます。初診時に患者さんに正しく病状や今後の見通しを説明するためには、今までの治療経過、検査結果をすべて正しくお伝えいただいた上で現在の症状をきちんと診察することが必要で、十分な情報がなければセカンドオピニオンとして情報を提供することはできません。こちらですべて最初から治療や検査を行ないながら診療を進めていくしかありません。「ステロイドを使わない」「アレルギー検査をしてくれる」医者を盲目的に探し求めるのがドクターショッピングの代表例ですが、これまでの情報を十分に提供することなく他医の受診をくりかえすこのようなケースもドクターショッピングと言えます。
 主治医の治療、説明に納得がいかない場合に、子どもさんのために何とか少しでも役立てようとインターネットの掲示板などあらゆるお役立ち情報を求める親御さんのお気持ちはよくわかりますが、そこでの情報はあくまで参考程度に留めてください。まずは主治医にもう一度納得のいかない点の説明をもとめて、それでも了解できない場合にはセカンドオピニオンとして他医を受診されることをお勧めします。一番良いのは前医に紹介状を書いてもらってから受診することですが、紹介状がない場合には前医での治療歴、検査結果、病状の経緯を正しく伝えたうえで、それまでの不満点・疑問点をはっきりと伝えてご相談くださいくれぐれも自分の考えに合わないからとドクターショッピングを続けることだけは避けてください。

 尚、当クリニックでは初診時に十分な時間が取れなかった場合、十分なご理解が得られなかった場合にご希望の患者さんに対して次回再診時に限り14時より(曜日は相談のうえ)予約制でアトピー相談を行なっております。ご遠慮なくご相談ください。


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