気まぐれ随想録

立場代われば

 先ごろ西武がアイスホッケー部の廃部を発表しましたが、スポーツファンとしてはとても残念に思います。一方でこの不景気な世の中では企業の側からすると仕方のないことかもしれません。銀行や郵便局ではここのところ振込などでやたら身分証明が厳しく行われ、融通の利かない、あまりにも機械的な対応に感情的になることもしばしばですが、立場を逆にして患者さんに対して銀行や郵便局と同じような対応をしている自分にふと気づくことがあります。
 最近医薬品のインターネット販売の認可について規制を続ける側、規制緩和を求める側双方の意見がいろいろ飛び交っているのを目にします。立場が代われば正反対の意見のいずれも正しいように思えますが、一歩引いて客観的に、利益の追求だけではなく安全性、公益性を優先して判断する必要があるのではないでしょうか。

日本アレルギー学会秋季学術大会にて

 先だって日本アレルギー学会に出席しましたが、iPS細胞で世界的に有名な京都大学山中伸弥教授の講演に非常に感銘を受けました。
 大学卒業から現在の研究に取り組むようになるまでの経緯をユーモアたっぷりに話されましたが、飽きることなくあっという間に時間が過ぎました。特に当初の研究において予想外の研究データをもとにいろいろ解析していくなかで研究テーマが順繰りに拡がりやがて現在のiPS細胞の研究にたどりついたということは意外でした。一連のストーリー仕立てで最後には素人にもわかりやすくiPS細胞についても要点ならびに今後の展望なども説明され、最先端の医学に触れることができ充足感を味わうことができました。
 山中教授と年の近い者としていろいろな意味で非常に刺激を受けましたが、特に開業医としては、立場を替えて患者さんに満足してもらうにはわかりやすく飽きさせずに説明することが大事であることを教えられました(一番苦手とするところですが・・・)。

「『坂の上の雲』をめざして古田敦也が語る熱き思い」を聴いて

 一年以上にわたって旧掲示板の更新を行っていませんでしたが、このたび気まぐれ随想録として再出発します。できるだけ頻回に更新していくために、皮膚科の内容に限定せず、雑多な、思いつくままの何でもありの内容にさせていただきます。よろしくお願いします。また、旧掲示板のバックナンバー(下記)もご参照ください。

 初回は今日コミセンで聴いてきた古田敦也氏の講演会についてお話します。演題は~夢、目標そして志~でした。幼少期からのいろいろなエピソードに始まり、プロ入りのいきさつ、野村監督とのやりとりなど、ユーモアを交えて当意即妙の非常に内容の濃い講演に大満足しました。老若男女を問わず聴衆を惹きつける人間味あるれる人柄に巨人ファンの自分ですが、純粋に古田ファンとなりました。近いうちにユニホーム姿をぜひ見たいものです。親に対する感謝の気持ち、目標を達成するためには何をすべきかなど、いろいろためになる話が満載で、今回このホームページの更新のきっかけを与えてくれたとても有意義な2時間でした。

小児アトピー性皮膚炎における脱ドクターショッピングのすすめ

 当クリニックではアレルギー科を標榜していることもあり、アトピー性皮膚炎の患者さん特に小児のアトピー性皮膚炎を診る機会が多くなっています。かわいい子どもさんがかゆがって、かきむしって、あげくのはてに皮膚が赤くなって、傷になったり、ごつごつしてきたりしますので、早く治してあげたいという親御さんのお気持ちはよくわかります。ところが、この親御さんの子どもさんを思う気持ちが強いがためにアトピー性皮膚炎の治療が難しいものになることがあります。
 実際に、多くの親御さんは、治療薬のステロイド外用剤は副作用が強くて子どもさんの体には良くないからできるだけ使いたくないとか、検査をして一刻も早く原因を見つけ出して根本から治してあげたいとかいう考えが強くなりがちです。極端になってくると、これらの考えに反する診療や説明を医者から受けた途端に、養老孟司著の「バカの壁」の文中にもあるように「知りたくないことに耳をかさない人間に話が通じない」という状態となり、いくら丁寧に説明しても了解いただけなくなってしまいます。アトピー性皮膚炎では患者さんによって治療法も検査が必要かどうかも異なるにもかかわらず、「ステロイドを使わない」「アレルギー検査をしてくれる」医者を探し求めるドクターショッピングへとつながっていきます。
 また、最近はインターネットを通じて非常に多くの情報が簡単に手に入るようになりましたが、アトピー性皮膚炎の治療に関しても患者さん同士がインターネットのいろいろなコミュニティでの掲示板を通して活発に情報を交換しているのを目にすることがあります。クリニックでの治療に満足ができなかったり、医者が信頼できなかったりした場合に近況を伝えて同じ状況の方に意見を求めて参考にするものですが、実際に何度か当クリニックに関するものと思われる書き込みにも遭遇して、正直なところ戸惑ったことがあります。書き込みをされる方は、相談者のことを真剣に心配されて誠意をもってアドバイスされているのはよくわかるのですが、その情報には誤りが多く必ずしも相談者のためになっていないことが多いのが実状かと思われます。
 実際の診療でもインターネットの掲示板上でも問題になっているのは、ほとんどの場合「ステロイド外用剤」と「アレルギー検査」に関してといっても過言ではありません。先にも少し述べましたが、「ステロイドを使わない治療をしてほしい」とか、「アレルギー検査(多くの場合血液検査)をしてほしい」とかいった要望です。ここで一度このような親御さんにぜひお願いしたいことは、一度ステロイドやアレルギー検査についての説明をきちんとそれまで診てもらっている主治医にしてもらうことです。ステロイドの副作用にはどのようなものがあり、実際にどのくらい起こるのかとか、アレルギー検査がアトピー性皮膚炎の原因を見つけるのにどの程度役に立つのかとかいったことを正しく教えてもらってください。主治医にきちんとした説明を求めても納得のいく対応をしてもらえないときにはセカンドオピニオンを求めて他医を受診されることをお勧めしますが、その場合にはドクターショッピングにならないように気をつけてください。
 そこで、ドクターショッピングセカンドオピニオンの違いですが、前者では患者さん自身に考え(信念)があってその考えにあった医者を探し求めるのに対して、後者の目的は、患者さんが納得し、満足するためにいろいろな医者の意見を基にしてより良い医療を求めることです。つまりドクターショッピングにおける主導権がもっばら患者さん自身にあるのに対して、セカンドオピニオンの主導権は医者と患者さんの双方にあるといえます。
 当クリニックでも良く経験しますが、セカンドオピニオンを目的にしているにもかかわらず前医での治療歴や検査結果を十分に情報として提供してもらうことなく受診される方が少なくありません。しかも初診時に決まって詳しい病状説明や今後の見通しを聞かれます。ところが、初診時には前医での治療過程に比べて情報量がはるかに少ないために、前医以上に詳しく病状説明を行なったり、治療効果をあげたりすることは物理的に不可能です。従って、こちらとしても「現時点ではよくわからない」としか答えようがありません。よく話を伺うと前医で病状の説明をきちんとしてもらっていないことがほとんどであるため、「改めて一度前医できちんと説明してもらってください」とお話することが多くなります。そうするとこちらに来られた意味がないということで他医を受診することにつながり、結果的にドクターショッピングとなってしまいます。初診時に患者さんに正しく病状や今後の見通しを説明するためには、今までの治療経過、検査結果をすべて正しくお伝えいただいた上で現在の症状をきちんと診察することが必要で、十分な情報がなければセカンドオピニオンとして情報を提供することはできません。こちらですべて最初から治療や検査を行ないながら診療を進めていくしかありません。「ステロイドを使わない」「アレルギー検査をしてくれる」医者を盲目的に探し求めるのがドクターショッピングの代表例ですが、これまでの情報を十分に提供することなく他医の受診をくりかえすこのようなケースもドクターショッピングと言えます。
 主治医の治療、説明に納得がいかない場合に、子どもさんのために何とか少しでも役立てようとインターネットの掲示板などあらゆるお役立ち情報を求める親御さんのお気持ちはよくわかりますが、そこでの情報はあくまで参考程度に留めてください。まずは主治医にもう一度納得のいかない点の説明をもとめて、それでも了解できない場合にはセカンドオピニオンとして他医を受診されることをお勧めします。一番良いのは前医に紹介状を書いてもらってから受診することですが、紹介状がない場合には前医での治療歴、検査結果、病状の経緯を正しく伝えたうえで、それまでの不満点・疑問点をはっきりと伝えてご相談くださいくれぐれも自分の考えに合わないからとドクターショッピングを続けることだけは避けてください。

 尚、当クリニックでは初診時に十分な時間が取れなかった場合、十分なご理解が得られなかった場合にご希望の患者さんに対して次回再診時に限り14時より(曜日は相談のうえ)予約制でアトピー相談を行なっております。ご遠慮なくご相談ください。

検査をしないのがアレルギー科?必要な検査をするのがアレルギー科!

 当クリニックはアレルギー科を標榜していますので、「アレルギー科があるから受診した」という患者さんがいらっしゃいますが、そのような方々の多くは「アレルギー科=検査をする科」と思っていられるようです。実際にアレルギーの有無は血液検査を行なったり、パッチテストやプリックテストなどの皮膚テストを行なったりして調べていくわけですが、はたして検査は万能なのでしょうか?皮膚科領域で代表的なアレルギー性疾患であるアトピー性皮膚炎を例にあげて考えてみましょう。
 乳幼児のお母さん方は子どもに湿疹がみられると、アトピー性皮膚炎ではないかと心配されてしばしば検査を希望されます。このようなお母さん方の多くは「乳幼児の湿疹=アトピー性皮膚炎、乳幼児のアトピー性皮膚炎=食物アレルギー、食物アレルギー=血液検査陽性、血液検査陽性⇒食事制限、食事制限=根治療法、根治療法⇒ ステロイド不要、ステロイド不要=非ステロイド外用剤(保湿剤含む)のみ外用」といった考えをお持ちのようです。具体的には「アレルギー検査でひっかかった場合、その予防をきちんとしていけば(ステロイドを使わなくても)完治するであろう!?」という考えです。
 乳幼児のアトピー性皮膚炎については多くの例で食物アレルギーの検査を行なうと陽性にでます。ところが実際に食べてみても症状が変わらない場合も少なくありませんし、逆に検査では陽性にでなくても実際に食べてみると症状が出る場合もあります。あくまでも検査は参考材料に過ぎず頼りすぎてはいけません。食物アレルギーは、実際には除去試験(食べるのをやめて良くなるかどうか)や負荷試験(食べてみて悪くなるかどうか)を行なって初めて診断が確定されます。
 そもそも前述のようなお母さん方の考え・対応はほとんどの場合適切ではなく、正しいところと誤ったところをひとつひとつお母さん方に説明しながら正しい考え・対応に修正していくことがアレルギー科医(皮膚科医)としての重要な役割です。
 実際の外来の現場では流れ作業的に初診時のルーティンとして検査が行なわれがちですが、検査をする必要があるかどうかを見極めること、すなわち問診や皮膚症状から食物アレルギーやアレルゲン(アレルギーの原因物質)の存在が疑われる例においてのみ積極的に検査を行なうこと、言いかえれば「個別化医療=テーラーメード医療」の実践こそがアレルギー診療に最も必要なことだと考えます。


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