気まぐれ随想録

検査をしないのがアレルギー科?必要な検査をするのがアレルギー科!

 当クリニックはアレルギー科を標榜していますので、「アレルギー科があるから受診した」という患者さんがいらっしゃいますが、そのような方々の多くは「アレルギー科=検査をする科」と思っていられるようです。実際にアレルギーの有無は血液検査を行なったり、パッチテストやプリックテストなどの皮膚テストを行なったりして調べていくわけですが、はたして検査は万能なのでしょうか?皮膚科領域で代表的なアレルギー性疾患であるアトピー性皮膚炎を例にあげて考えてみましょう。
 乳幼児のお母さん方は子どもに湿疹がみられると、アトピー性皮膚炎ではないかと心配されてしばしば検査を希望されます。このようなお母さん方の多くは「乳幼児の湿疹=アトピー性皮膚炎、乳幼児のアトピー性皮膚炎=食物アレルギー、食物アレルギー=血液検査陽性、血液検査陽性⇒食事制限、食事制限=根治療法、根治療法⇒ ステロイド不要、ステロイド不要=非ステロイド外用剤(保湿剤含む)のみ外用」といった考えをお持ちのようです。具体的には「アレルギー検査でひっかかった場合、その予防をきちんとしていけば(ステロイドを使わなくても)完治するであろう!?」という考えです。
 乳幼児のアトピー性皮膚炎については多くの例で食物アレルギーの検査を行なうと陽性にでます。ところが実際に食べてみても症状が変わらない場合も少なくありませんし、逆に検査では陽性にでなくても実際に食べてみると症状が出る場合もあります。あくまでも検査は参考材料に過ぎず頼りすぎてはいけません。食物アレルギーは、実際には除去試験(食べるのをやめて良くなるかどうか)や負荷試験(食べてみて悪くなるかどうか)を行なって初めて診断が確定されます。
 そもそも前述のようなお母さん方の考え・対応はほとんどの場合適切ではなく、正しいところと誤ったところをひとつひとつお母さん方に説明しながら正しい考え・対応に修正していくことがアレルギー科医(皮膚科医)としての重要な役割です。
 実際の外来の現場では流れ作業的に初診時のルーティンとして検査が行なわれがちですが、検査をする必要があるかどうかを見極めること、すなわち問診や皮膚症状から食物アレルギーやアレルゲン(アレルギーの原因物質)の存在が疑われる例においてのみ積極的に検査を行なうこと、言いかえれば「個別化医療=テーラーメード医療」の実践こそがアレルギー診療に最も必要なことだと考えます。

アトピー教室の開催について(終了致しました。)

 先だって11月26日(日)レディ薬局主催の健康セミナーで「アトピー治療の現場より~正しく知りたい7つのポイント~」の演題で講演させていただきました。決められた時間のなかで多くのことをお話しようとしすぎたためにまとまりのない、ポイントのはっきりしない内容となってしまい、お休みのなかご参加いただいた方々のご期待にはそえなかったかもしれません。この講演会の開催をきっかけに、アトピー性皮膚炎の正しい理解と治療の実践の一助になることを目的として、今後もアトピー性皮膚炎について1回ごとにひとつのテーマをもとにしてアトピー教室を継続していくことに致しました。

 毎回テーマごとに講演させていただきますが、そのほかにも、アレルギー検査について、ステロイドについて、いつまでたっても治らない症状についての今後の見通しなど、患者さんやご家族の方がいろいろ知りたいこと、疑問に思うこと、不安を感じることに対しても直接お答えさせていただきます。医師にとっては診療ではわからない患者さん自身の生の声を聞く機会にもなり、また患者さん同士で安心して情報交換ができる場にもなるかと思います。

 当院を受診されたことのない方でもご参加いただけますが、皮膚科専門医もしくは小児科専門医を受診してアトピー性皮膚炎の診断を受けたことのある患者さんもしくはご家族の方に限らせていただきます。また、他医による治療に対するコメントにつきましては、当教室では原則的に差し控えさせていただきますのでご了解ください。尚、準備の関係上、アトピー教室は完全予約制となっております。受付でお申し込みいただくか、お電話(089-915-1655)にてお問い合わせください。

場 所 二宮皮フ科クリニック 多目的室

日 時 平成19年1月~3月 第3木曜日 14時~14時30分

定 員 10名程度まで(予約制)

尚、具体的な日時、内容につきましては、別途各種案内の欄にてご案内させていただきます。

大量のステロイド外用を長期間続けても良くならないアトピー性皮膚炎患者さんは入院治療が必要です。

 アトピー性皮膚炎の治療は薬物療法、悪化因子の検索・除去、スキンケアの3本柱に則って治療を行なっていきます。ほとんどの場合これらの治療方針で症状の改善が望めますが、実際の診療の現場で治療に難渋するケースが主に二つあげられます。一人暮らしの方で背中に症状が目立ち、自分できちんと薬を塗れない(まわりの方に塗ってもらえない)場合と悪化因子が分かっていながらどうしても除去することができない場合です。前者の場合には少しでも回数を多く受診してもらってその際外用処置ができれば症状の改善が期待できますが、後者の場合にはなかなか良くなりません。具体的にはハウスダストの強いアレルギー(RAST 異常高値を含む)がありながらホコリにまみれる仕事を続けられている方などが相当します。このような方々はなかなか症状がよくならないにもかかわらず、たまにしか受診できませんので一回の診察で大量の強いステロイドを処方してしまうことになります。このような状況が長期にわたりますとステロイドの副作用が問題になってきます。
 このようなケースで一番良い対応は一度入院施設のある皮膚科でしっかり悪化因子を検索・除去して、薬を適切に塗って症状を改善させることです。入院することでいろいろ検査をしたうえで悪化因子をほとんど除去することができますし、背中の塗りにくい部分へのステロイド剤の外用や全身のスキンケアを十分に行なうことができますので、必ずいったん症状は治ります。退院してからは元の環境に戻って悪化因子にさらされますと症状は再び悪くなりますが、スキンケアを心がけながら早めにきちんとステロイド剤を外用しますと入院前の状態にすぐに戻ることはありませんし、入院前よりもずっと少ない量のステロイド外用剤で症状をコントロールすることができます。
 症状が良くならないまま延々と強いステロイド外用剤を大量に続けていきますと副作用がほとんどの場合見られるようになりますし、リバウンドのような急激な悪化が見られる機会も増えてきます。入院期間は数週間から一か月程度に及びますので、仕事や家庭の事情などでなかなか入院できないのはよくわかりますが、長期間強いステロイドを大量に塗り続けながら症状が一向に良くならない方につきましては何とか工面をつけてお早めに入院治療をされることをお勧めします。尚、当クリニックにつきましては入院施設がありませんので基幹病院の皮膚科に紹介させていただいております。

見ただけでわかるのが皮膚科の名医なの !??!

 見ただけで診断を即座につけることのできるお医者さんが名医だと患者さんから言われることがあります。ほとんど誰も知らないような特別な病気を診断するような場合にはあてはまるかもしれませんが、たいていの皮膚病の場合には見るだけで診断はできません。手足の水虫ひとつとっても真菌要素を顕微鏡で検査しなければ正確に診断できません。湿しん、掌蹠膿疱(しょうせきのうほう)症、汗疱(かんぽう)など、見ただけで区別のつかない疾患が少なからずあります。実際の診療では、外来の状況、過去の既往歴、治療歴なども考慮して毎回顕微鏡検査をするわけではありませんが、一度も検査をしていない場合には本当に水虫かどうかわからない場合もあります。特に、爪に変化があると、すぐに爪水虫と思われがちですが、爪周りの湿しんや靴の具合や歩き方などの影響で爪の変形がくることもあります。前医で皮膚や爪を見ただけで水虫の診断を受けていて、良くならずに転医してきて、顕微鏡検査で水虫(白癬(はくせん)菌)がいない場合に水虫ではないと説明した場合にこちらの話すことを理解してもらえないことがあります。そうした場合、前の医者はすぐに水虫がわかったのに、今度の医者は水虫もわからないということでまた別の皮膚科医を受診されがちです。
 同じようなことはアトピー性皮膚炎にもあてはまります。症状を一度みただけで、あるいは検査結果をみただけでアトピー性皮膚炎の診断をすることはできませんし、悪化因子を特定することはできません。水虫のときとは逆に、検査結果だけでアトピー性皮膚炎の診断や悪化因子を決めつけることは避けなければなりません。検査結果と実際の臨床経過が一致して初めて意味があります。外用剤だけでコントロール良好なアトピー性皮膚炎の患者さんは一度検査をすれば何回も検査をする必要はありませんが、、外用剤だけでは症状の改善のみられない重症の方は悪化因子の検索のために一度は検査をして悪化因子を取り除く必要があります。
 時間をかけず、手間をかけず、正確な診断、治療をすることができるのが理想の名医ですが、治療経過をみたり、検査を行なったりして初めて診断ができることもめずらしくありません。皮膚科医において、占い師のように見るだけで水虫の診断をすべて行なったり、検査結果だけを頼りにアトピー性皮膚炎の治療を行なうのは名医ではなく、迷医ではないでしょうか。

つけ薬の処置について

 皮膚科での治療の中心はつけ薬ですが、診察の時につけ薬を処方するだけで終わると「薬をつけてくれないのか?薬をもらうだけなら薬局とかわらないではないか!?」と言われることが時々あります。実際に当クリニックでは患者さんによって薬を塗ったり、塗らなかったりしますが、その辺りの事情について説明させていただきます。当クリニックで患者さんに処置として薬をお塗りするケースとしては、症状がひどく、ガーゼ処置などが必要なとき、かゆみが強く少しでも早く薬を塗ったほうがよいと思われるとき、背中など自分で薬が塗れない場合が先ずあげられます。また、初診で薬の塗り方を一度説明しておいたほうが良いと思われた場合にもお塗りする場合があります。基本的に自分で塗れる場所で、症状の強くない場合や薬を塗った直後、あるいは入浴までの時間があまりない時には薬の処方だけを行ないます。また、陰部など患者さんが自分で塗ることを希望されるだろうと予測できるケース(ただし処置が必要な場合は除く)も処方だけにします。患者さんに処置でつけ薬をつけるとその塗る範囲に応じて処置料がかかりますので患者さんのご要望がなければできるだけ処方だけにしています。
 患者さんによって薬を塗ってもらいたい方と自分で塗りたい方に分かれますが、なかなかどちらを希望されているか判断しかねることも少なくありません。散髪屋さんで「ひげを剃ってほしい」あるいは「剃らないでほしい」と意思表示をするのと同様に「薬を塗ってほしい」または「自分で塗る」とご遠慮なくお伝えいただければと思いますが、如何なものでしょうか?


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